「リンパ腫の進行が遅い」ということは、「リンパ腫が直接の原因となって体調を崩すことはまれである」ということです。極論しますと、菌状息肉症は治療をしなくてもすぐには進行せず、寿命を全うできることも多いリンパ腫です。
何もしないでも、発疹(ほっしん)が良くなることすらあります(自然治癒)。
しかし、菌状息肉症には表裏一体の相反する面があるのも事実です。1つは(1)で説明したリンパ腫らしくない一面です。もう1つは治療が難しく、数年で死に至ることもある、悪性度の高いがんである悪性リンパ腫としての一面です。

(3)何が、このような2つの極端に異なる側面を生み出しているのでしょうか。 その鍵は、病気の進み具合(“臨床病期”)にあります(上の図)。
(4)菌状息肉症は、一般的には紅斑期(こうはんき)、扁平浸潤期(へんぺいしんじゅんき:局面期)、腫瘍期と進行します。悪性度の高い悪性リンパ腫としての側面は、腫瘍期になってはじめて現れます。紅斑期、扁平浸潤期では、悪性リンパ腫とはとても思えないほどにおとなしくしています。実際に、湿疹(しっしん)として見過ごされている場合も多いのですが、それでもすぐに何か重大な問題を起こすことはありません。腫瘍期になっていなければあわてることはありませんし、腫瘍期に進んでしまわない限り、それほど心配のいらない病気なのです 。
・・・次の点に十分気をつけて下さい・・・
(5)菌状息肉症は皮膚のリンパ腫なので、自分で発疹を見ることができます。しかし、診断はできません。臨床病期の判断もできません。専門医の診察を受ける必要があります。
(6)菌状息肉症をはじめとして、皮膚リンパ腫の多くは悪性度が低い悪性リンパ腫です。
*自分で判断しないで、まず専門医にみてもらってください。
以上のことをご理解した上で以下の項目を見てください。
【菌状息肉症】
【リンパ腫様丘疹症、皮膚CD30陽性未分化大細胞リンパ腫】
【セザリー(Sézary)症候群】
【皮膚B細胞リンパ腫】
【その他の皮膚リンパ腫】
菌状息肉症は、悪性度の低いリンパ腫です。しかし、進行するとそうともいえません。はじめは、かゆみや痛みがほとんどない淡い紅色や褐色等さまざまな色調の発疹(紅斑(こうはん))が、おなか、腰、太もも、背中等に見られます。この時期を紅斑期(Patch Stages)と呼びます。多くの方はこの状態のままにとどまりますが、中には次の段階(臨床病期)に進行する方もいて、淡い紅色や褐色の紅斑が触ると少しふくらんでいる状態になります。色調もくすんだ紅色や褐色でなく、鮮やかな紅色調になってきます。紅斑の周辺部分だけが少し盛り上がったり(隆起したり)、紅斑全体が腫(は)れてきたりとさまざまです。この時期を、「扁平浸潤期」あるいは「局面期(Plaque Stages)」と呼んでいます。この状態から特に何もしないで、腫れが引いて紅斑期に戻ることもあります。ここまでを「前息肉期」と呼びます。悪性度が低いリンパ腫といえます。
しかし、場合によっては扁平浸潤期の紅斑の盛り上がりが止まらず、短い期間でさらに大きく盛り上がってくることがあります。何もしないでいると、体のあちこちで同じように紅斑が盛り上がり、今まで紅斑の無かったところにも新たに発疹ができてきます。ひどくなると体中を覆ってしまいます。この時期を「腫瘍期(Tumor Stages)」と呼んでいます。こうなると、悪性度が低いとはいえません。後で述べますが、腫瘍期はTNM病期分類ではIIB期、III期、IVA期、IVB期に分類されます。紅斑やがんが皮膚全体を覆った状態がIII期です。IV期では、リンパ節(IVA期)や内臓(IVB期)にリンパ腫細胞が浸潤(転移)していきます。
かゆみや痛みなどの自覚症状を欠く、大小不同で色調の多彩な紅斑が腰(腰部)やおしり(臀部(でんぶ))、おなか(腹部)や太もも(大腿部)に見られたら、菌状息肉症である可能性を考えます。
注意:その他、通常とは異なる特殊な臨床像を持つ菌状息肉症(全体の5%位)もあります。
毛包(もうほう)にがん細胞の浸潤する「毛包好(もうほうこう)性菌状息肉症」、組織学的に肉芽腫(にくげしゅ)の見られる「肉芽腫性菌状息肉症」、脱色素斑(だつしきそはん)が主体である「脱色素斑型菌状息肉症」、「多形皮膚萎縮性(たけいひふいしゅくせい)菌状息肉症」、「色素性紫斑様(しきそせいしはんよう)菌状息肉症」、「孤在性菌状息肉症」、「手掌足底(しゅしょうそくてい)菌状息肉症」、「魚鱗癬(ぎょりんせん)型菌状息肉症」等です。
菌状息肉症は、歴史が古い疾患です。200年前の1806年にAlibertらにより報告され、1876年Bazinらによりpatchs、plaques、tumorsと3段階の臨床病期が定義されました。1975年Lutznerらは、菌状息肉症やセザリー(Sézary)症候群など皮膚を初発、主病変とするT細胞リンパ腫を「皮膚T細胞リンパ腫(Cutaneous T-cell Lymphomas:CTCL)」と呼ぶことを提案しました。1997年のヨーロッパの研究グループEORTC(The European Organization for Research and Treatment of Cancer)分類でもこの名称が用いられていて、菌状息肉症やセザリー症候群はCTCLの代表的疾患と位置づけられました。しかしその後の国際分類では、WHO分類、WHO-EORTC分類とも、菌状息肉症をセザリー症候群とは異なる末梢T細胞リンパ腫の一病型として分類しました。
石原らの悪性腫瘍に関する疫学調査(全国87施設)では、1992年から1996年の5年間で、菌状息肉症の平均年間発症数は108例でした。WHO(2001年)は、10万人あたり0.29人と報告しました。
いずれの年齢でも発症しますが、主に成人〜高齢者に多く発症します。男女比は2:1で、統計上は男性に多く発症しています。
菌状息肉症の病因は、現在不明です。
菌状息肉症では、扁平浸潤期、腫瘍期と進行しても血液検査での異常が見つかることは少ないです。しかし、アトピー性皮膚炎のときのように好酸球が増加したり、IgEというアレルギー反応に関係する抗体が高くなることがあります。

菌状息肉症紅斑期では、湿疹や老人性乾皮症との区別(鑑別)が難しいことがあります。それでもかゆみや痛みがほとんどなく、淡い紅斑局面が腰部を中心に多く見られると、菌状息肉症を疑います。病理検査や画像検査、血液検査で、病期を含めた確定診断ができます。

悪性リンパ腫は、化学療法や放射線療法が有効ながんであり、原則的に根治させることが治療目標となります。菌状息肉症腫瘍期でも、病変が限局していれば放射線療法は有用ですが、病変が広範囲におよぶと、化学療法でも根治が難しくなります。治療計画をたてるにあたっては、病期を確定(表1)し、予後を予測しつつ(表2)、身体的要因、社会的要因などを加味して、どの治療方法が一番有用であるかを検討します。
表1 CTCLの病期分類(Sausvilleら)
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| 保湿薬: | ヒルドイドソフト、プロペト、ウレパール、パスタロンソフト、ケラチナミン軟膏等 |
| ステロイド外用薬: | デルモベート軟膏、マイザー軟膏、ネリゾナ軟膏等 |
| 局所光線療法: | 外用PUVA療法 |
| 局所免疫療法: | オーガンマ、ビオガンマの局所注射 |
| 局所電子線照射療法: | 電子線を30Gy〜36Gy患部に照射 |
| 免疫療法: | インターフェロンガンマ(IFNγ)療法(オーガンマ筋注(100万単位)、ビオガンマ静注(200万〜400万単位))。国外でよく用いられているインターフェロンアルファ(IFNα)は、国内では未承認です。IFNγと紫外線療法の併用療法は、週3回からはじめます。扁平浸潤期から使われる治療法です。 |
| 紫外線療法: | Narrowband UVB、外用PUVA療法、Bath PUVA療法、内服PUVA療法等があります。寛解導入療法では入院治療が必要です。 |
| 全身電子線照射療法: | 全身に放射線を照射する治療法です。脱毛や放射線皮膚炎、不妊などの放射線障害が、高頻度で出現します。菌状息肉症の早期ほど、寛解導入後の再発が少ないことがわかっています。 |
| 化学療法: | 単独療法と多剤併用療法がありますが、現状では、腫瘍期での標準治療はありません。 |
| 骨髄移植: | 末梢血幹細胞移植が試みられています。 |

2つの疾患は、WHO-EORTC分類では皮膚CD30陽性Tリンパ球増殖症(Primary Cutaneous CD-30 Positive T-cell Lymphoproliferative Disorders)と1つの疾患グループにまとめられています。このグループのリンパ腫は、菌状息肉症と比較しても、さらに悪性度の低いリンパ腫です。それでも定期的に専門医の診察は必要です。日常生活に特に支障はありません。
リンパ腫様丘疹症(りんぱしゅようきゅうしんしょう):個々の発疹は数mmから10mm程度の大きさの小結節(しょうけっせつ)で、中心にかさぶたやびらん・潰瘍(かいよう)を伴います。大きいもので数cmに及ぶこともあります。数個から数十個、あるいはそれ以上の新旧の発疹が体幹(たいかん)、四肢(しし)に出没します。かゆみとか痛み等の自覚症状は通常ありませんが、びらんや潰瘍があると痛みがあります。個々の発疹は2〜3週から6週間で軽度の瘢痕(はんこん)、色素沈着(しきそちんちゃく:しみ)を残して治ります。小児から高齢者までどの年齢でも発症しますが、30〜40歳代に多くみられます。例外的な発疹として、褐色調の斑があります。よく見ると、褐色斑の中に小さな丘疹があります。リンパ腫様丘疹症は、数ヵ月から長い場合は40年以上にわたって繰り返し出没します。20%程度が他のリンパ腫と併発したり、進展したりします。併発するのは、菌状息肉症、ホジキン病、皮膚CD30陽性未分化大細胞リンパ腫等です。
皮膚CD30陽性未分化大細胞リンパ腫:発疹は短期間で大きくなる結節で、大きくなるにつれ、中心部にかさぶたやびらん・潰瘍ができてきます。通常は1つだけとか、左腕や右脚といった1つの領域に局在します。しかし、約20%は体中にくまなく多発します。リンパ腫細胞は、近くにあるリンパ節に転移しやすい(10%くらい)反面、リンパ腫様丘疹症のように自然消退(しぜんしょうたい)、再発を繰り返します。
リンパ腫様丘疹症:慢性に経過する疾患で、自然に消えてしまうことがあるため、まずは様子をみます。治りが悪い、どんどん殖えてしまうというときに積極的な治療を考えますが、副作用を念頭に置いても有用である場合のみ、治療を選択します。メソトレキセート(methotrexate:MTX)内服(5〜20mg/週)、PUVA療法やIFNγ療法、チガソン内服(20〜30mg/日)等が有効な治療法です。
皮膚CD30陽性未分化大細胞リンパ腫:病変が1ヵ所に局在していれば、電子線照射あるいは外科的に切除します。多発性であればメソトレキセート(methotrexate:MTX)の内服(5〜20mg/週)、IFNγ療法、チガソン内服(20〜30mg/日)等、リンパ腫様丘疹症と同じ治療を行います。多剤併用療法は、内臓浸潤が生じたときやメソトレキセートが無効の場合に行います。
菌状息肉症とともに、皮膚リンパ腫の代表的疾患です。紅皮症(こうひしょう)、全身のリンパ節の腫脹(しゅちょう)、血液中にセザリー細胞と呼ばれる異型リンパ球(T細胞)が現れることを特徴とします。
セザリー症候群はまれなリンパ腫で、成人に発症します。紅皮症は、落屑(らくせつ:皮膚の表面がカサカサして乾いた垢がパラパラと落ちます)、皮膚のむくみ(浮腫(ふしゅ))、苔癬化(たいせんか:皮膚が硬くなってきます)を伴い、かゆみがあります。脱毛や、爪の変形はよくみられます。また、手のひら足の裏が硬くなり、ひび割れてきます。
菌状息肉症と比較すると、悪性度の高いリンパ腫です。治療法は菌状息肉症と同じです。PUVA療法やIFNγ療法は、有用な治療法です。
原発性皮膚B細胞リンパ腫(Primary Cutaneous B-cell Lymphomas:CBCL)は皮膚原発で、1.皮膚病変のみか、2.皮膚病変が主体でがんの進行に伴い、他臓器に病変が及ぶB細胞リンパ腫です。ヨーロッパの皮膚リンパ腫に関する研究グループ(The European Organization for Research and Treatment of Cancer:EORTC)では、皮膚以外に少なくとも6ヵ月間、病変が生じない場合を、皮膚原発と定義しました。
皮膚B細胞リンパ腫は、皮膚リンパ腫の中でも数少ないリンパ腫です。ほとんどが悪性度の低い皮膚濾胞(ひふろほう)中心細胞リンパ腫と、皮膚濾胞辺縁帯(へんえんたい)B細胞リンパ腫です。悪性度の高い皮膚大細胞リンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫、血管内大型B細胞リンパ腫は非常にまれです。
さまざまな臨床症状をとります。1.境界明瞭でドーム状に隆起する、表面平滑な弾性硬の紅色結節、2.軽度隆起する、境界不鮮明な紅色の皮膚・皮下硬結(ひかこうけつ)、3.浸潤を伴う不規則な紅斑等が代表的発疹です。単発や多発があります。多発性では、病変が一領域にとどまる場合も、広範囲に及ぶ場合もあります。
単発であれば、外科的切除あるいは放射線照射を行います。局所的に多発している場合は放射線照射、全身性であれば「CHOP(チョップ:シクロホスファミド/ドキソルビシン/ビンクリスチン/プレドニゾロン)療法」などの多剤併用化学療法を行います。CD20抗原陽性であれば、抗CD20抗体「リツキシマブ」(rituximab)単独療法や併用療法(R-CHOP)の適応となります。その他ステロイド内服を行います。
皮膚濾胞中心細胞リンパ腫や皮膚濾胞辺縁帯リンパ腫は予後良好ですが、下肢の大細胞リンパ腫はこれらより予後不良です。皮膚濾胞辺縁帯リンパ腫は自然治癒傾向がありますので、様子をみるのも1つの選択肢です。
発症頻度は少ないですが、悪性度の高い皮膚リンパ腫があります。診断は他の皮膚リンパ腫と同様に、病理組織診断で行います。
非常にまれなリンパ腫です。40歳までの若年者に多く、高熱や肝機能障害、全身倦怠感(けんたいかん)を生じる予後不良のリンパ腫です。中には緩(ゆる)やかな経過をたどる場合もあります。治療法は多剤併用療法です。若年者で、経過が急激な場合は末梢血幹細胞移植を行います。
極めてまれなリンパ腫です。結節、潰瘍、菌状息肉症様の発疹等さまざまな発疹が見られます。世界的にも少ないリンパ腫であることから、治療法も確立していません。
悪性度の高いリンパ腫です。日本、中国などの東アジアや中南米に多く、EB(エプスタイン・バー)ウイルスが発症に関連しているリンパ腫です。主として中高齢者に発症し、体に紅斑、局面、皮下硬結、結節が見られます。結節では中心部が出血し、しばしば潰瘍化します。発熱、全身倦怠感などの全身症状を伴い、急速に進行します。治療はできるだけ早期に放射線照射を行い、その後に多剤併用化学療法を行います。
リンパ腫細胞の特徴は、菌状息肉症やセザリー症候群と異なり、CD8陽性の細胞障害性T細胞です。50歳以上の高齢者に多く、予後不良です。発疹は、中心部にかさぶたや潰瘍を伴う結節や紅斑局面ですが、急速に拡大します。進行すると肺などの内臓に浸潤していきます。治療は菌状息肉症に準じて行いますが、残念ながらあまり効果はありません。
参考文献