卵巣は子宮の両わきに各ひとつずつある親指大の楕円形の臓器です。生殖細胞である卵子がそこで成熟し、放出されます。それとともに周期的に女性ホルモンを分泌しています。
初期にはほとんど症状はありません。卵巣がんには、転移しにくいがんと転移しやすいがんがあります。転移しにくい卵巣がんは、がんができてから長期間卵巣内にとどまって発育しますから、腫瘍がまだ大きくないうちは、検診などで婦人科の診察を受けた時に偶然発見されることもあります。腫瘍が大きくなると下腹部にしこりが触れたり、圧迫感があったり、あるいは膀胱が圧迫されて尿が近くなるなどの症状で婦人科を受診することになります。転移しやすいがんの場合は、腫瘍が卵巣内であまり大きくならないうちに転移してしまうため、腹水のために腹部全体が大きくなるとか、胸水がたまって息切れがするなど、転移による症状ではじめて異常を自覚することが少なくありません。
下腹部に圧迫感のある場合は婦人科の診察だけでも、腫瘍があるかないか、卵巣の腫瘍か子宮筋腫かはかなりわかります。診察で腫瘍が疑われる場合は、超音波、X線によるCT、MRIなどの画像診断によって、子宮の腫瘍か、卵巣腫瘍か、腫瘍の内部の構造、転移の有無などを詳しく調べます。検査によって良性か悪性かを推定することができます。
血液中に微量に存在するCA125という糖タンパクを測定することは、良性、悪性の判定に役立ちます。卵巣がんの中で最も多いタイプの漿液性(しょうえきせい)腺がんはCA125を産生しますので、血液中のCA125は卵巣がんに特異性の高い腫瘍マーカーです。転移のある卵巣がんではほとんどの人がCA125陽性で、多くは非常に高い値になりますから、血液検査だけで卵巣がんとわかることがあります。しかし、早期がんでは陽性率は低く、また、若い女性の中にはがんがなくても軽度陽性の人もいるので、CA125は卵巣がんの早期発見にはあまり役立ちません。
卵巣がんは初診時すでに転移している人が多いため、症状のない健康人を検診して、卵巣がんを早期発見しようとする試みが研究として行われています。検診は血液検査(CA125)と腟からの超音波検査によって行われます。過去10年間、わが国よりも3倍以上卵巣がんのリスクが高い欧米で多くの検診が研究として行われましたが、検診の有効性を証明できませんでした。このような結果を分析して、欧米の医学界では研究以外の場で無症状の女性が卵巣がん検診を受けることは推奨できないとするガイドラインを1994年に出しています。
卵巣がんと診断された場合、がんがどの程度転移しているかの検査が行われます。その結果、がんの拡がりの程度に応じて治療方法が変わってきます。このがんの拡がりの程度を病期といいます。
腹膜播種のような転移を術前に画像診断で見つけることは難しいので、病期は手術所見によって決められます。手術中、直接見ることができる転移の有無だけでなく、手術後摘出物を検査した結果によって、病期が決定されます。病期は次のように分類されています。
がんが片側、あるいは両側の卵巣にだけにとどまっている状態。
がんが卵巣の周囲、つまり卵管、子宮、直腸、膀胱などの腹膜に転移している状態。
がんが卵巣の周囲(骨盤内)の腹膜だけでなく上腹部にも転移しているか、あるいは後腹膜リンパ節に転移している状態。後腹膜とは、腹腔の背側にある腹膜と背骨や背筋との間の領域で、大動脈、下大静脈、腎臓、尿管などのある場所です。後腹膜リンパ節を便宜上、大動脈周囲の傍大動脈リンパ節と骨盤内の骨盤リンパ節に分けます。
がんが腹腔外に転移しているか、あるいは肝臓に転移している状態。
I、II期は手術によって完全に切除できますが、III、IV期は手術だけで完全にとり除くことができないという意味で進行がんといわれることもあります。
治療方法には外科療法、放射線療法、化学療法があります。
卵巣がんは手術によって診断が確実にできます。また、がん細胞のタイプや拡がりの程度がわかり、その後の治療方針が決まります。卵巣がんの手術は転移の状態、年齢などによって異なりますが、次のような方法のうちから普通(1)と(2)が行われ、さらに(3)と(4)が行われることがあります。
片側の卵巣、卵管だけを切除する場合と両側の卵巣、卵管、子宮を含めて切除する方法があります。
大網とは胃から垂れ下がって、大小腸をおおっている大きな網のような脂肪組織です。大網は卵巣がんの転移が最もよくおこる組織であり、切除しても実害はありません。
後腹膜リンパ節は卵巣がんの転移がおこりやすい部位のひとつです。転移が疑われるリンパ節を採取して検査することをサンプリングといい、リンパ節とリンパ管を系統的にすべて切除することをリンパ節郭清といいます。
腹腔内の転移をできるだけ切除するために、大腸、小腸、脾臓などをがんと一緒に切除することもあります。
高エネルギーX線を身体の外から照射する外照射と、放射性リン(32P)の溶液を腹腔内に注入して内部から腹膜の表面を照射する方法があります。卵巣がんでは手術後の残存腫瘍に対して、以前はよく放射線療法が行われましたが、最近では化学療法のほうが主に行われています。しかし、脳に転移した腫瘍に対しては放射線治療が行われます。
抗がん剤を使う治療を化学療法といいます。抗がん剤は手術でとりきれなかったがんに対する治療として使われます。卵巣がんは、成人のがんの中では抗がん剤が比較的よく効くがんのひとつです。抗がん剤は内服、あるいは静脈注射で投与されます。また、直接腹腔内に注入されることもあります。いずれの場合でも、抗がん剤は血液中に入り全身に広がって作用します。抗がん剤はがん細胞に強い障害を与えますが、正常の細胞にも影響を与え、副作用をおこします。抗がん剤を繰り返し使うことによって、がん細胞が完全に消滅することもありますから、効果がある限り、ある程度副作用がおこるまで使用します。卵巣がんによく使われる抗がん剤の副作用として、血液中の白血球と血小板の減少、貧血、吐き気や嘔吐、食欲の低下、脱毛、手足のしびれなどがおこります。
治療は病期、年齢、がんの組織型、がん以外の病気の有無などによって異なります。病状に応じて現在、最も有効と認められている治療は標準治療と呼ばれています。難治性のがんでは、標準治療は満足できる結果を多くの場合もたらすことができません。そのためさまざまな新しい治療法が研究され、試みられています。
新しい治療法はよりよい治療を目指して行われますが、必ずしも標準治療よりもよい結果をもたらすとは限りません。新しい治療法の試みは、担当医だけで行うのではなく、多くの専門家の管理のもとで「臨床試験」として行われます。新しい治療と標準治療を比較する臨床試験を比較試験といいます。比較試験の結果、新しい治療が優れていることがわかれば、新しい治療を標準治療とします。
これから卵巣がんの治療を受ける場合は、「現在の標準治療」を受けるか、「臨床試験中の新しい治療」を受けるかどちらかを選ぶことになります。
手術によってがんのある卵巣を切除します。片側の卵巣、卵管だけを切除する場合と、両側の卵巣、卵管、子宮を含めて切除する方法があります。大網は一見して転移がない場合でも切除します。切除した大網を手術後検査すると顕微鏡的な転移が見つかることがあります。転移があれば、I期ではなくIII期ということになります。後腹膜リンパ節は、手術時に転移が疑われる場合、サンプリングをしてすぐに病理検査をします。病理検査の結果、転移があれば骨盤リンパ節と傍大動脈リンパ節を郭清します。転移があれば、I期ではなくIII期ということになります。
手術後、摘出物の顕微鏡的検査の結果、卵巣以外にがんが転移していないことがわかって、はじめてI期であることが確定します。
このような手術によって、I期であることが確定した場合、手術後、化学療法を行って再発を予防する試みは臨床試験として行われています。
手術は両側の卵巣、卵管、子宮を転移のある骨盤腹膜を含めて切除する方法で行われます。直腸にがんの浸潤がある場合には直腸を含めて切除することもあります。大網は一見して転移がない場合でも切除します。切除した大網を手術後検査すると、顕微鏡的な転移が見つかることがあります。転移があれば、II期ではなくIII期ということになります。後腹膜リンパ節は、手術時に転移が疑われる場合、サンプリングをしてすぐに病理検査をします。病理検査の結果、転移があれば骨盤リンパ節と傍大動脈リンパ節を郭清します。転移があれば、II期ではなくIII期ということになります。
手術後、大網とリンパ節の顕微鏡的検査の結果、転移していないことがわかれば、はじめてII期であることが確定します。
このような手術によってII期であることが確定した場合、手術後、化学療法を予防的に行って治癒率を改善しようとする試みは臨床試験として行われます。
III、IV期のがんは進行がんとして同じように治療が行われます。III、IV期のがんは転移が広範囲にあるため、手術によって完全に切除することはできません。しかし、一部のがんが残ってもできるだけ多くのがんをとり除いたほうが症状を改善できるため、全身状態が耐えられれば、できるだけ多くのがんを切除します。病状によっては手術で大部分のがんがとれる場合もありますが、開腹したけれどほとんど何もとれずに終わる場合もあります。手術前の検査によって、開腹しても切除は難しいと予測される場合は、まず化学療法を行ってがんを縮小させてから手術する方法もあります。
手術は両側の卵巣、卵管、子宮を、転移のある骨盤腹膜を含めて切除する方法で行われます。直腸にがんの浸潤がある場合には、直腸を含めて切除することもあります。大網、後腹膜リンパ節、脾臓、大腸、小腸の一部を転移したがんと一緒に切除することもあります。
手術後、残された腫瘍に対する治療として化学療法が行われます。化学療法の際は、標準治療で行うか、新しい治療法を臨床試験として行うかを選ぶことができます。
初回手術で切除できずに残ったがんが化学療法によって縮小し、切除可能となった場合には再手術が行われることもあります。
再発は治療により一度消失したかにみえたがんが再び増殖して見つかるようになった状態です。再発に対して以下の治療法のひとつが行われます。
再発が一部に限局している場合は、その部分を切除するだけで、再びがんのない状態が長く続くことがあります。再発が広範囲でがんを切除することができない場合でも、症状を和らげるための手術(例えば、胃瘻造設のための手術)を行うこともあります。
最初の抗がん剤が非常に有効であった場合は、再発に対しても同じ抗がん剤が効きますが、再発に対する化学療法は症状緩和のひとつとして行われます。最初用いた抗がん剤が効果がなかった場合は新薬を用いることが多くなります。新薬を用いる場合は臨床試験として行われます。腹水を抑えるために、腹水をとった後、腹腔内に抗がん剤を注入することもあります。
脳転移した腫瘍に対しては化学療法でなく放射線の照射が有効です。
生存率は、通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。用いるデータによってこうした他の要素の分布(頻度)が異なるため、生存率の値が異なる可能性があります。
ここにお示しする生存率は、これまでの国立がんセンターのホームページに掲載されていたものです。生存率の値そのものでなく、ある一定の幅(データによって異なりますが±5%とか10%等)をもたせて、大まかな目安としてお考え下さい。
治療後、5年以上経過して生存している場合の割合を5年生存率、10年以上生存している場合の割合を10年生存率といい、治療成績としてあらわします。
国立がんセンター中央病院の卵巣がんの進行期別患者数と治療成績は以下のとおりです。
| 病期 | 患者数 | 5年生存率 | 10年生存率 | |
|---|---|---|---|---|
| I期 | 72 | 91% | 83% | |
| II期 | 23 | 72% | 66% | |
| III期 | 163 | 31% | 24% | |
| IV期 | 65 | 12% | 9% |