ここでは、主に成人の骨髄異形成症候群の場合について述べます。
「骨髄異形成症候群」(医師は「MDS:エムディーエス」とよく呼びます)というと、「難しい名前の病気…」という気がすると思いますが、
| 骨髄 | 異(常) 形成 | 症候群 | ||
| ↓ | ↓ | ↓ | ||
| 血液細胞をつくる工場 | つくるのが異常になった | いくつかの病気の集まり |
(症候群とは、1つの病気ではなく似たような病気をいくつか集めてまとめる呼び方、つまり総称です)
と、病気の状態をそのまま表した病名で、血液細胞のがんの1つです。
さて、最初に書きましたように、「骨髄異形成症候群」とは「工場で血液細胞をつくるのに異常が起きた病気」という意味です。骨髄異形成症候群とは、白血球、赤血球、血小板の3種類の生産ラインのうちの一部に異常が起きたのではなく、工場において3種類の血液細胞のおおもとになる、「種の細胞」(造血幹細胞)の調子が悪くなってしまう病気です。このため、生産ラインすべての細胞に、大なり小なりの異常(「いびつさ」と例えてみます)が生じる可能性があります。骨髄異形成症候群にみられる「血液細胞の異常」は、顕微鏡で観察したときの形の異常(「異型性」と呼ばれます)だけでなく、その機能の異常も含まれます。骨髄異形成症候群の骨髄では、実際には白血球、赤血球、血小板の3種類の細胞は、外見上でも細胞の形態異常(「異型性」と呼ばれます)が認められます。おおもとの種の細胞(造血幹細胞)にいびつさが生じてしまったため、そこからできてくる3種類の血液細胞のすべてに異常が起きる可能性があります。いびつさがあるために成熟できず、未熟な細胞の状態のままで生産ラインが先へ進めなくなってしまうものや、一応成熟したように見えてもいびつなために壊れやすいもの、また出荷されたものの、見た目のいびつさだけでなく、細胞の機能が劣るものなどが生じてしまいます。3種類の生産ラインのすべてに同時に異常が発生する場合だけでなく、まず1種類や2種類の生産ラインから異常が生じて、次第に3種類へと進行していく場合もあります。
このようないきさつから、骨髄異形成症候群では、まず末梢血で貧血(赤血球の減少)や血小板の減少、白血球数の異常(減少や増加)などの血液細胞数の異常が指摘されます。骨髄の検査を行ってみると、「異型性」のある細胞が認められることがあります。また、おおもとの種の細胞に異常があり、骨髄の細胞の染色体を調べると染色体異常が発生していることがあります(約50%に染色体異常がみられます)。ただし、ここで述べる染色体異常は先天的なものではなく、後天的、つまり生まれた後に発生してきた異常です。骨髄異形成症候群には遺伝性はありません。
骨髄異形成症候群は「いくつかの病気の集まり」であると書きましたが、これに含まれる病気(病型)の種類としては、「不応性貧血(RA)」、「芽球の多い不応性貧血(RAEB)」などがあります。
やや誤解を招くかもしれませんが、最も簡潔に概略を述べるとすると、
RA(軽症)
RAEB(重症)
とまずは考えてみてください。
この病型が、
RA(軽症)
↓
RAEB(重症)
↓
白血(病)化(急性骨髄性白血病)
へと、病気の進行に伴って「病型が移行」していく場合があります。
「白血病へと移行する可能性もある」ということから、骨髄異形成症候群は「血液の腫瘍性疾患(血液のがん)」であるといえます。ただ、「予後」の項で述べますが、「RA」の場合には、病型が移行しない例も多いです。
もうちょっと詳しく病型について知りたい方は、クリックしてください。
高齢者に多いです(50歳以上が多いのですが、若年者にも起こります)。
特徴的な症状はなく、血液検査で、末梢血中の1種類以上の血液細胞に、数の減少を指摘されることが多いです。
また、末梢血中の血液細胞数の減少により、以下のような症状が出現する場合が多いです。
ほとんどの症例について、原因は不明です。
染色体異常が認められるものも、これは先天的ではなく後天的なものであり、遺伝性はありません。ただ、「二次性骨髄異形成症候群」という特殊な病気があります。これは、過去に他のがんに対して抗がん剤治療や放射線治療を受けた数年後に、いわば治療の副作用として発症するものです。
血液検査で、末梢血中の1種類以上の血液細胞に、数の減少やそれによる下記のような症状を指摘された場合には、骨髄異形成症候群以外が原因となっている可能性があります。血液内科を受診して精密検査を受けることが必要です。
骨髄異形成症候群の診断は、以下のような検査で調べます。
| 血液検査 (末梢血の検査) |
白血球、赤血球、血小板の数、血液細胞の形態異常の有無、未熟な血液細胞の有無 |
| 血液検査 (生化学検査) |
肝機能、腎機能などの検査 |
| 骨髄検査 | 血液細胞の形態異常の有無、未熟な血液細胞の割合を調査、病型を決定するために必須。 染色体異常の検査(骨髄細胞を用いて検査する) |
骨髄異形成症候群の分け方についてはまだ変遷途中ですが、病気の進行に伴って、以下のように「病型の移行」がありうると考えられています。
骨髄異形成症候群における主な死因は、血小板減少による出血や、白血球減少による感染です。
また、骨髄異形成症候群の多数の症例の予後を解析して、予後を予測する方法も研究されています。予後にかかわる主な因子は、以下の3項目と考えられています。
IPSS(International Prognostic Scoring System:国際予後判定システム)for MDSは、
という3項目が予後に深く関連すると考えて、これらを点数化して予後を予測する方法です。
表2 骨髄異形成症候群の予後判定のための国際予後判定システム
IPSS(International Peognostic Scoring System) for MDS
| 予後因子の配点 | 0 | 0.5 | 1 | 1.5 | 2 |
| 骨髄での芽球% | <5% | 5〜10% | − | 11〜20% | 21〜30% |
| 染色体異常 | 良好 | 中間 | 不良 | ||
| 血球減少 | 0-1系統 | 2-3系統 |
| 染色体異常 | 良好 | 正常、20q-、-Y、5q- |
| 中間 | その他 | |
| 不良 | 7番染色体異常、複雑(3個以上) |
| リスク群 | スコア | 予後(50%生存) |
| 低リスク群 | 0 | 5.7年 |
| 中間リスク群-1 | 0.5〜1.0 | 3.5年 |
| 中間リスク群-2 | 1.5〜2.0 | 1.2年 |
| 高リスク群 | ≧2.5 | 0.4年 |
WHO分類での、予後のデータも参考として載せておきます。
| 表3 WHO分類の予後 | ||||||||||||||||||||||||
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抗がん剤治療や放射線治療を行った後に別のがんが発症する「二次性骨髄異形成症候群」については、抗がん剤治療に対する反応性が不良であり、予後不良です。
骨髄異形成症候群は、骨髄にあるおおもとの種の細胞(造血幹細胞)に異常が起こる病気であり、完治には骨髄の造血幹細胞の総入れ替え(:造血幹細胞移植)が必要です。
「芽球の多い不応性貧血(RAEB)」など、高率で予後不良が予測される場合には、造血幹細胞移植を行うことを考慮します。昨今、造血幹細胞移植の対象となる年齢幅が従来の50歳以上から年々高齢層へと広がっていますが、骨髄異形成症候群を発症する患者さんも高齢化しているため、造血幹細胞移植を行える患者さんばかりではありません(高齢になると、体の各臓器の合併疾患などの問題も多く、強力な治療を伴う造血幹細胞移植が困難な場合も多いため)。
ただ、白血(病)化へと移行する可能性の少ない「RA」などの病型の場合には、血液細胞数の減少が高度になっていない間は、造血幹細胞を行わずに経過観察していく場合もあります。しかし若年の患者さんは、白血(病)化へと移行する可能性の少ない「RA」などの病型であっても、末梢血での血液細胞数の減少が高度に進行すると日常生活で輸血が必須となります。その場合には、造血幹細胞移植を考慮します。
造血幹細胞移植以外の治療方法としては、以下のようなものがあります。
骨髄での未熟な血液細胞(芽球:blast(ブラスト))の割合が5%を超える「芽球の多い不応性貧血(RAEB)」や、白血(病)化した患者さんに対しては、急性骨髄性白血病に準じた抗がん剤治療を行います。抗がん剤治療としては、上記の「a)急性骨髄性白血病に対する標準的な治療に準ずる多剤併用化学療法」と、「b)高齢者や合併症がある症例に対して行う低用量分化誘導療法」があります。
a)の例としては、イダルビシン+シタラビンやダウノルビシン+シタラビンなど
b)の例としては、CAG療法(アクラルビシン+シタラビン低用量+G-CSFF)
(G-CSFは抗がん剤ではない)
数回の抗がん剤治療を行って、骨髄での未熟な芽球の割合が5%以下になること(寛解)を、とりあえずの目標とします。しかし骨髄異形成症候群は、残念ながら、抗がん剤治療による寛解到達だけでは治癒とはなりません。この効果は1年ぐらいしか持続しない場合が多く、再び骨髄での芽球の割合が増加してきてしまいます。また、造血幹細胞移植前に抗がん剤治療を行う場合もあります。これは、骨髄中の未熟な芽球を減少させてから造血幹細胞移植をするためです。骨髄中の未熟な芽球の割合が20%以下の場合には、抗がん剤治療なしで造血幹細胞移植を行う場合もあります。
造血幹細胞を攻撃するリンパ球を抑える「免疫抑制剤」を投与して、血液細胞数減少の改善を図ります。免疫抑制剤としては、シクロスポリン、副腎皮質ステロイド、抗胸腺グロブリン:ATGなどが用いられます。しかし残念ながら、免疫抑制療法により効果の出る割合はあまり高くありません。またステロイドなどは、減量すると血球細胞数が再び減少してしまうことが多いです。一方、白血球数減少により、感染しやすい易感染性になっているところへ免疫抑制剤を投与するため、さらに感染しやすくなってしまう可能性もあります。
ビタミンKおよびビタミンD投与が、骨髄異形成症候群における末梢血での血液細胞減少の改善や、病状の進行を遅らせるという報告もあり、このような効果を期待して投与します。ほかの治療と併用されることがあります。
末梢血中の血球細胞数の減少が著しい場合には、支持療法として1)〜3)に輸血を併用します。赤血球減少に対しては赤血球輸血を、血小板減少に対しては血小板輸血を行います。なお、白血球減少については、輸血はしません(抗菌剤内服などによる感染予防を行うことはあります)。
また、「7.骨髄異形成症候群(MDS)の予後」の項で述べたように、予後と深くかかわる染色体異常で、非常に複雑な染色体異常が認められる場合には、抗がん剤に対する治療の反応性が非常に悪いことが予測されます。高齢者でこのような複雑染色体異常が認められた場合には、むしろ強い抗がん剤治療を行わないで、輸血のみで日常生活を維持できるようにしていく支持療法のみのほうがよい場合もあります。