がん疼痛は決して末期状態だけに出現するものではないので、がんという診断から死亡するまでの間のどの病期においても痛みに対する治療を行う必要があり、痛みの性状や原因についての検討を進めると同時に、適切な鎮痛薬の投与を開始するべきである。
患者の痛みの原因は、4つの要因に分けられる。
効果的な治療を行うには、痛みについて適切な診断を行う必要がある。痛みが軽いうちに治療を開始すると、痛みの軽減が安全に、しかも早く得られる。
表1 がん患者の痛みの診断
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痛み治療の目標を3段階(表2)に分けて段階的に痛みを取っていくのがよい。
表2 痛み治療の目標の設定
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鎮痛薬を投与するときは、食事ができているか、中心静脈栄養中か、痛みの強さ、副作用の出方などで鎮痛薬の最適な投与経路を選択することができる。がん患者の疼痛に対する鎮痛法の種類と選択を表3に示した。
表3 痛みの治療法と鎮痛薬投与法の選択(経口摂取の可否と鎮痛薬投与法の選択)
<痛みの治療法>
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がん患者の持続性の痛みを鎮痛薬によって効果的に治療するには、表4に示す基本原則を守らなければならない。
表4 鎮痛薬投与の基本原則
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疾患や外傷などによって組織損傷を受けた局所に発痛物質のプロスタグランディン(PG)が生産されるので、アスピリンや非ステロイド性抗炎症鎮痛薬がPGの生合成を抑制することにより、末梢受容レベルでの鎮痛作用を示す。副作用の代表は胃腸障害(PGは胃粘膜の細胞保護作用を持つ)であり、この副作用は薬剤と胃粘膜との接触によるものだけではないので、直腸内投与、静脈内投与によっても胃腸障害は起こりうるため注意が必要である。
また、アセトアミノフェンは抗炎症作用をほとんど持たないがNSAIDsに含まれる。
NSAIDsは基本的には、骨転移痛、感染や炎症による痛みに対して有効である。
NSAIDsが鎮痛効果を示す痛みか否かわからないときには、例えばフルルビプロフェン(ロピオン)を静注し、痛みが消失するならば、NSAIDsが有効な病態と診断し、NSAIDsが吸収されるように与える。使い慣れたNSAIDsを定期的(時間を定めて)に投与する。(ドラッグチャレンジテスト)
現在、静注できるNSAIDsはフルルビプロフェン(ロピオン)だけである。ロピオン1アンプルを生理食塩水50mlに混注させたものを1日に3〜4回点滴静注する(IVHを行っている場合は、側管から30分〜1時間かけて点滴投与する)。または、脂肪乳剤(イントラファット、イントラリポスなど)にロピオンを3〜4アンプル混注させたものをIVHの側管から24時間かけて点滴投与する方法も、発汗が少なく、鎮痛効果が安定しているので、患者に好評である。
燐酸コデインは弱オピオイド鎮痛薬の代表薬である。鎮咳薬としてよく使用されるが、モルヒネのほぼ1/10〜1/6の鎮痛効力を持つ。体内で代謝され1/10がモルヒネとなり効果を発揮する。非オピオイド鎮痛薬ががん患者の痛みに十分な効果がないときに選択すべき薬は、燐酸コデインで代表される弱オピオイドか、少量の強オピオイド(モルヒネ)である。燐酸コデインは、原末、10倍散、100倍散、20mg錠が市販されている。燐酸コデインはNSAIDsと併用する。
経口コデイン30mgはアスピリン650mgとほぼ同等の鎮痛効果があり、両者を併用すると、その鎮痛効果はコデイン60mgと同等ないしそれ以上となる。投与開始量を30mg/回とし、効果をみながら30〜50%をめどに順次増量する。燐酸コデイン30〜130mg/回をアスピリン250〜500mg/回と併用(4〜6回/日)すると、相乗効果があり、ペンタゾシン内服より強い鎮痛効果が期待できる。ほぼ130mg/回が有効限界と考えられているので、2〜3回の増量で痛みが緩和しないときには、モルヒネへの切り替えを考慮する。
主な副作用は便秘で、投与初期から緩下剤の十分量を併用する。ときに嘔気を発生させるが、制吐薬が有効である(モルヒネの副作用と対策を参照)。高齢者では、急激な増量により、痰の喀出が困難となることや眠気が発生しうるので、急激な増量を避ける。
(レペタン坐剤(R))
日本で開発されたブプレノルフィン坐剤(レペタン坐剤(R))はWHOがん疼痛治療法の第3段階に属する薬である。レペタン坐剤(R)0.2mgは1個中レペタン0.2mgを含有する。レペタン坐剤(R)0.4mgは1個中レペタン0.4mgを含有する。いずれの製剤も水溶性基剤を用いている。
通常、成人にはブプレノルフィンとして1回0.4mgを直腸内に投与する。その後必要に応じて、8〜12時間ごとに反復投与する。なお、低用量より投与を開始することが望ましい。
レペタン坐剤(R)の投与では、特に起立、歩行時に悪心、嘔吐、めまい、ふらつきなどの症状が現れやすいので、投与後しばらくの間はできるだけ安静にするように注意する。なお、レペタン坐剤(R)はがん疼痛のみならず、術後の疼痛にも適応が認められている。
1986年WHOがん疼痛治療指針が発表されて以来、モルヒネは日本においてもがん疼痛治療のスタンダードとなっている。オピオイドローテーションが行われるようになってきている現在でも、がん患者の疼痛マネジメントにおける中心となっているのはモルヒネである。値段が安く、どんな国でも手に入り、患者の状態に合わせて種々の投与経路を使用できるからである。定期制な使用のためにはモルヒネを正しく使うことを考える必要がある。そのためには、適切な患者への説明によるモルヒネへの偏見の除去、副作用に対する適切な対策、予防が重要である。ペインクリニックは、痛みを包括的に治療するところであり、神経ブロックも、WHO方式も痛みをとるための重要な手段の1つであり、痛み治療の両輪とさえいわれている。神経ブロックは専門家のみが行える特殊な治療法であるが、モルヒネを基本としたWHO方式は、医師として本来、最低限知っておくべき誰でもできる痛みの治療法である。
WHOがん疼痛治療指針が作成された意図は、全世界のあらゆる国に存在するがん患者を痛みから解放することである。この意味は、どんな貧しい国でも、どんなに医療が遅れている国でも、痛みに苦しんでいるがん患者は存在するため、誰でもできる疼痛治療法を普及させる、ということである。痛みを全人的な痛みとしてみることはもちろんのこと、薬物の投与に関して5つの理念をあげている。
| 1) | 経口投与を基本とする(by the mouth)。これは、特別な薬物投与機器が必要ないこと、いつでも患者自身で痛みのマネジメントができることがポイントである。そして、 | |
| 2) | 薬物の作用時間を考え十分な量を、時間を決めて服用すること(by the clock)。 | |
| 3) | 痛みの強さに応じて弱い順から強い痛みに対しては強い痛み止めを投与する(by the ladder)。 | |
| 4) | 個人の特性に合わせて(for the individual)、 | |
| 5) | 細心の注意を払って(with attention to detail)のように述べられている。 |
| 1) | 経口的に(by the mouth):どこでも痛みがとれる利点がある。 | |
| 2) | 時間を決めて定期的に(by the clock):薬物の血中濃度を安定化させることが重要である。 | |
| 3) | 徐痛ラダーに沿って(by the ladder):痛みの強さに応じてそれに見合った薬物を使用する。麻薬は痛みがある患者では精神依存は起こらないため、中等度以上の痛みがある時には適応となる。 | |
| 4) | 患者ごとの個別的な量で(for the individual):至適投与量と鎮痛効果が最大となり、かつ副作用が最小となる投与量の目標に調整する。 | |
| 5) | 以上の4原則を守った上で細かい配慮を行う(with attention to detail) がんの痛みは、診断から亡くなるまでの間に強さも性質も変化するが、オピオイドの反応性を確かめながら、その変化に対応していくことが重要である。 |
モルヒネは血漿中に取り込まれると、血漿中で約1/3が蛋白と結合し、血液での生理的pHではイオン化した状態が維持され、水溶性が非常に強い。従って、モルヒネが体全体に広がっていても組織に取り込まれる量は限られている。代謝は主として肝臓で行われる。主たる代謝産物はモルヒネ−3−グルクロニド(M3G)、モルヒネ−6−グルクロニド(M6G)であり、M3Gは不活性であるが、M6Gは活性がありモルヒネそれ自体よりも半減期が長く、鎮痛作用も強いといわれている。グルクロン酸抱合されたものは腎から排泄され、腎機能が低下している患者ではM6Gの蓄積が起こり、呼吸抑制を含めたオピオイドの副作用が強くなることがある。一方、肝機能障害がある患者では、肝性昏睡になる直前までの間、肝臓での代謝は保たれていることが多く、モルヒネの代謝障害による影響は出にくいとされている。モルヒネをワンショットで静注した場合、血漿中のモルヒネ濃度は急激に上昇しても効果を発現させる脳や脊髄の受容体に作用するまでには15〜30分以上かかるといわれている。また、中枢神経症状が発現するまでにかかる時間も同様である。血漿中の半減期は2〜3時間とされている。初回投与量としては、1日持続投与量約10mgで行っている。経口投与を行うと、肝での初回通過効果(First Pass Effect)が高くbioavailabilityが低くなるため、経口投与量は持続静脈投与量の約2倍とされている。
モルヒネの薬理作用は中枢神経系の作用と消化管平滑筋への作用、末梢受容体への作用が中心である。中枢作用は鎮痛、気分の昂揚、催眠、鎮咳、呼吸抑制などである。末梢作用は腸管、膀胱などの平滑筋の緊張を亢進させ、便秘や腹満、排尿困難の原因になることがある。
モルヒネの使用は身体的依存と耐性との発生につながるといわれているが、これは投与を継続した結果生じる薬理的正常反応であることを銘記するべきであろう。身体的依存とは投与を突然中断すると自律神経の嵐である退薬症候(頻脈、発汗、下痢などの自律神経系の多彩で激烈な症状で、以前は禁断現象と呼ばれていた)が出現することを特徴とし、耐性とは反復投与していると効果が減少することである。また、精神的依存性とは薬への欲求のあまり、その入手に異常に執着することを特徴とした行動様式であるが、疼痛を有する患者には依存性(乱用)の発現や耐性は皆無に等しいと報告されている。実際に国立がんセンター中央病院では、術後の鎮痛目的に硬膜外モルヒネ注入による除痛法を1万人以上に施行し、患者から好評を得ているが、退院してからモルヒネを求めてきた患者は1人もいない。しかし、中止にあたっては漸減することが望ましい。
非常に強い痛みがあるとき、あるいは適切に使用された弱オピオイド・クラスの鎮痛薬(コデインなど)などの他の鎮痛薬の効果が薄れ、拮抗性鎮痛薬(ペンタゾシンやブプレノルフィンなど)の注射が1〜2回行われるようになったときはモルヒネ投与の適応である。1〜2mgのモルヒネを静注し、除痛が得られるのであれば、モルヒネが鎮痛効果を示す痛みと診断し、モルヒネが吸収され、しかも患者の自立性が保たれるような投与経路を考えるのも良い方法である。
頻回に鎮痛効果と副作用の出現を観察することが、モルヒネ投与による治療の成績を向上させる。また、投与継続中は、効果と副作用を追跡し、痛みの消長に応じた必要な投与量の調整を行う必要がある。確実な副作用防止策、ことに便秘と嘔気の対策が重要である。
鎮痛に必要な十分量の鎮痛薬を服用してもらう(服薬コンプライアンスを上げる)ことから、痛み治療が始まる。鎮痛薬の定期的(時間ごとの)服用と継続のためには、鎮痛薬の臨床薬理の知識と副作用の説明・対策が必要になる。「モルヒネ=麻薬中毒=廃人」のイメ−ジを取り除くために、折に触れて患者・家族に時間をかけて説明していることを表5に記載した。
表5 モルヒネへの誤解を解くためのモルヒネ投与時の説明の実際
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MSコンチン錠(R)は上記のようにして1日の除痛に必要なモルヒネ個人量(例えば、60mg)が定まったら、1日に必要なモルヒネ量を2分して12時間ごとに与える(1回30mgを12時間ごとに服用)。投与時刻は患者の生活上の便宜を配慮して、午前と午後の同時刻(患者と相談し、例えば午前7時と午後7時)とする。
痛みの消失(完全除痛)に必要なモルヒネ量は患者ごとに異なる。大部分の患者では1日のモルヒネ量としては30〜180mgである。ときには1日量として1,200mg以上が必要となるが、痛みの除去に適切な量であれば、特に副作用が多くなる訳ではない。
副作用が出現すると、患者は目に見えない部位の臓器(例えば肝や腎)にもモルヒネが悪影響を与えているのでないかという不安を持つ。副作用に適切に対応すれば(あるいは予防すれば)、モルヒネを中断することなく投与でき、治療成績は向上する。
嘔気は、モルヒネの嘔吐中枢への刺激作用によって発生し、患者にとって非常に不快な自覚症状である。モルヒネ服用後に嘔吐があるとモルヒネが吸収されないことにより、痛みがそのまま残り、ひいてはモルヒネに対する患者の信頼感が失われる。モルヒネの反復投与開始とともに制吐薬を併用する。モルヒネの催吐作用への耐性は比較的早く発生し、モルヒネの投与開始からおよそ2週間を経ると、制吐薬を中止あるいは減量しても大多数の患者で嘔気は起こらなくなる。表6にモルヒネによる嘔気への対策を一覧表にした。
表6 モルヒネによる嘔気の管理法
<制吐薬の投与法>
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モルヒネを投与したほとんどすべての患者に便秘が発生し、便通の管理を怠ると、頑固な便秘となり、患者にとって新たな苦悩になる。この作用は鎮痛のために必要なモルヒネ量によって発現し、耐性ができにくいため、どの経路で投与したモルヒネによっても投与が続く限り便秘が続く。従って、モルヒネを反復投与する時には便秘防止策を必ず行わなければならない(表7)。最もよく用いられる緩下剤は、蠕動刺激薬であるセンナ製剤であり、増量しながら適切量を求めて投与すれば、便秘を解消できる。
表7 モルヒネによる便秘の管理法
<プルゼニド錠の投与法>
などを遅れることなく実施する。また、食事管理を患者の好みを尊重しながら行う。 |
強い傾眠ないし眠気は、モルヒネの投与量が多過ぎることの最初の指標となる症状である。モルヒネの投与量を減量しなければならない。しかし、軽度の眠気は高齢者においてはモルヒネ投与開始時によくみられ、また痛みのため不眠が続いていた患者では除痛後、睡眠不足解消のため睡眠時間が長くなることがある。
強い傾眠ないし眠気があるときはモルヒネの投与量を50%減量する。軽度の場合は減量せずにそのまま投与を続けると、数日で消失する。モルヒネの催眠作用には耐性が早く現れるからである。痛みが残っているため、さらに増量が必要な場合には、この副作用症状が消失してから行う。鎮痛に必要な最低量に減量しても、まだ眠気が残っていることがある。このときはメチルフェニデート(リタリン)を朝、昼の2回投与する。また、モルヒネを減量し、他の鎮痛薬(例えば、非ステロイド系抗炎症薬)を併用したり、モルヒネの硬膜外注入(後述)の一時的な実施も考慮する。
除痛に適切なモルヒネ投与を行う限り、問題となるような錯乱の発生はまれである。また、モルヒネ投与時に出現する錯乱の原因はモルヒネだけによるものでなく、脳転移、髄膜炎、電解質異常(高Ca血症、低Na血症)、肝不全、腎障害はもとより、痛み、便秘、呼吸苦、臥床、高熱などの身体的苦痛およびそれらに伴う精神的苦痛、不安や抑欝などの心理的要因でも出現する。錯乱の原因が何であれ、患者およびその家族は気が狂ったと驚愕・不安・絶望に駆られるので、適切な対応を行う必要がある。
モルヒネ投与時の副作用である眠気や意識状態低下、幻覚や不穏あるいは興奮などが出現した場合は、非ステロイド系抗炎症鎮痛薬の持続的投与を併用すると、モルヒネを減量させ、患者・家族および医療従事者にとっても、意識が清明なよい鎮痛状態が得られる。
投与を開始すると数日にわたって患者が自覚することがあり、この症状は高齢者に多い。よく説明しておき、消失するまで増量を控えて投与を続け、観察していれば消失するので、消失してから必要な増量を行う。しかし、患者にとっては苦痛であり、ふらつき感が継続すると、モルヒネに対する信頼度も失われるので、適切な対応を行う必要がある。
「モルヒネの急性中毒時の死因は呼吸麻痺と循環不全である」と薬理学の成書に書かれてあるが、鎮痛のために適切に用いたモルヒネが原因となって呼吸抑制が発生することはまれである。しかし、万一、呼吸抑制が発生したら、生命を脅かすことがあることをよく認識し、機械的、図式的に、あるいは電話連絡のみで、モルヒネ投与および投与後の観察が行われると、このような不幸なことが起こりうる。モルヒネのワンショット静脈内投与は危険であるから、行うときは少量ずつ投与し、ベッドサイドで意識状態や呼吸数、呼吸の深さ、舌根沈下の有無などについて十分な観察を行う。呼吸抑制を生じたら、次の処置をとる(表8)。
表8 モルヒネによる呼吸抑制への対応
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化学療法や放射線治療は痛みにも著効を示すことがある。モルヒネ投与で副作用がなく、鎮痛状態が得られていた患者が、化学療法後しばらくしてから嘔気や眠気を訴えることがある。痛みの原因病変が完全に消失しなくとも、問診すると、痛みが全くない。このような症例では投与モルヒネを1/2〜2/3量に減量すると、痛みもなく、副作用が消失する。表9に示すように、一般的にはモルヒネ投与量を2〜3日またはそれ以上かけて少しずつ減量すれば、退薬症候の発現を回避できる(投与量にもよるが、一般的にはモルヒネ中止に至るまでに要する日数は2〜3週間である)。退薬症候は成書に書かれている幻覚や錯乱より先に頻脈、発汗などの自律神経の症状、疝痛や下痢などが出現することが多い。注意深い観察で退薬症候を防止できる。退薬症候が疑われたら、少量のモルヒネを経静脈的に投与する。α、βブロッカーを併用するのも退薬症候の軽減に有用である。
表9 具体的なモルヒネの漸減法
<塩酸モルヒネ製剤1回量30mgを4時間ごとの投与の場合>
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鎮痛薬を内服すると、すぐに薬が吸収されるのではなく、また剤型によってもモルヒネの吸収速度や量が異なる。従来からの塩酸モルヒネ水溶液、MSコンチン錠(R)及びアンペック坐剤(R)の薬物動態(ファーマコキネティクス)を表10に示した。
表10 モルヒネ製剤の薬物動態(ファーマコキネティクス)
| τ ラグタイム |
Tmax | Cmax | AUC | |
|---|---|---|---|---|
| モルヒネ水 10mg |
0.12 | 0.5 | 19.5 | 54* |
| MSコンチン錠(R) 20mg |
1.2 | 3.0 | 18.7 | 125** |
| MSコンチン錠(R) 30mg |
1.46 | 2.7 | 29.9 | 166** |
| アンペック 10mg |
0.36 | 1.5 | 25.8 | 121*** |
| アンペック 20mg |
0.34 | 1.3 | 35.4 | 170*** |
鎮痛薬を投与するときは、食事ができているかどうか、中心静脈栄養が施行されているか否か、痛みの強さなどで鎮痛薬の投与経路が異なる。例えば、食欲の低下している患者に鎮痛薬を経口投与しても、モルヒネの吸収は悪く、除痛状態が得られないことも多いので、投与経路を変更するべきである。また、強い痛みにはモルヒネを経静脈的に投与し、早期に除痛すべきである。
経口摂取がやっとの状態の患者でもモルヒネ内服が鎮痛効果を示していれば、経口投与でよい。しかし、定期的な鎮痛薬服用が困難である場合は、モルヒネ坐剤を定時的に用いることも可能であるが、モルヒネ持続皮下注、静注法を用いるほうが調節性がよい。食事の量も時間も不安定な患者は、定時的にモルヒネを内服しても、鎮痛薬の血中濃度を一定に保つことが困難なので、モルヒネ持続皮下注のよき適応である。
中心静脈栄養(TPN)を受けている患者、または持続的に点滴投与を受けている患者の痛み除去にはモルヒネの持続点滴投与が適している。モルヒネの持続点滴法はモルヒネの吸収が良好か否かを推測する必要がなく、血中濃度を一定に保ち、安定した除痛状態を継続させること、および疼痛の増強に対して1時間量をレスキューとして滴下し(臨時追加投与)、除痛をはかることができることなどが利点である。在宅などの患者で除痛に必要な1日の静注モルヒネ量が定まり、除痛状態が継続している時は、IVHの袋の中に1日量のモルヒネを混注し、24時間で点滴投与することには法律上の問題はない。
強度のがんの痛みがアンペック坐剤(R)の投与の適応である。具体的には、アンペック坐剤(R)は薬の内服が可能であるが、食事の量や時間が不定期(定期的な鎮痛薬服用が困難)で、モルヒネを必要とする患者に投与される。さらに、がん自体の病態、抗がん剤・放射線治療やモルヒネの副作用である嘔気・嘔吐があるときや、突然の激痛で経口投与が不可能となるときもアンペック坐剤(R)の適応となろう。
経口モルヒネ投与よりアンペック坐剤(R)のほうがモルヒネの吸収が良好なので、モルヒネ製剤としてはじめて本剤を投与する場合は、1回10mgを1日3回より開始する。もし、これで満足するべき除痛状態が得られなければ、至適投与量まで増量する方法が薬物動態からみて安全と考えられている。患者によっては、6時間ごとにアンペック坐剤(R)を投与する必要がある。
具体的には、アンペック坐剤(R)の投与開始量は1回、10mgを8時間ごとに直腸内に投与する。夜間に痛みがなく熟睡できることを第1の目標に、次いで安静時の痛みを、最終的には体動時の痛みを除去することを目指す。24時間後に効果を判定し、不十分なら、夜間の投与はアンペック20mg坐剤(R)を用いる。翌日効果と副作用を判定し、鎮痛効果が不十分なら、アンペック20mg坐剤(R)1個を8時間ごと投与に変更する。
アンペック坐剤(R)使用上の注意事項としては、下記のことなどがある。
A. モルヒネの経口剤からアンペック坐剤(R)への切り替え法
モルヒネは経口投与だけでなく、坐剤投与でも急に長期投与を中止すると、退薬症候が出現するので、休薬する時には漸減投与が必要である(表11)。
表11 モルヒネ坐剤(アンペック坐剤(R))の具体的な減量法
<モルヒネ坐剤(アンペック坐剤(R))1回量20mgを8時間ごとの投与の場合>
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持続皮下注はmicro infusion pumpを用いてモルヒネを皮下投与する方法である。イギリスのホスピスではモルヒネの持続皮下注が普及している。定期的に食事がとれない患者や間歇的に点滴を受けている患者には便利な方法である。患者が自分で追加ボタンを押すことができるPatient Controlled Analgesia (PCA)ポンプが使用可能である。
食事の量も時間も不定な患者は鎮痛薬を内服しても、鎮痛薬の吸収も不安定で、血漿中濃度を一定に保つことが困難なので、モルヒネ坐剤かモルヒネ持続皮下注を用いる。坐剤の挿入を患者が希望しなかったり、坐剤の挿入のための体位を取るのが困難である場合には、モルヒネ持続皮下注のよき適応である。
利点はモルヒネの吸収が良好か否かを推測する必要がなく、血中濃度を一定に保つことができること、急性疼痛あるいは慢性疼痛が急に悪化した患者に対して、急速にモルヒネを皮下注することで、除痛をはかることができること、在宅での生活が可能なこと、モルヒネ点滴投与法より入浴が簡単にできることなどである。
患者を教育することで、モルヒネの持続皮下注は在宅でも行うことができる。例えば、注入器にセットした翼状針を一時的に抜去すれば、入浴も簡単にでき、入浴後にまた新しい翼状針を皮下に刺入し、ポンプのスイッチを入れる。携帯用のポンプも数多く開発されており、取り扱いの簡単な使い捨て注入装置も開発されている。
1日に必要なモルヒネ注射量(表12)を求め、それの1/6の量をまず皮下注射して、モルヒネの血漿中濃度を上げておく。モルヒネの適切量(1〜3日分)を注射器に入れ、細め(27G)の翼状針(延長チューブを介在させてよい)をつけて先端まで薬液を満たし、注射器を持続皮下注入器にセットする。続いてスイッチを入れ、翼状針を前胸部皮下など体動の影響のない部位の皮下に刺入し、絆創膏で固定する。持続注入器を布製のカバンや袋に入れたまま、患者は自由に動くことができる。薬液は終了時間に補充するが、翼状針は2〜3週間交換しないで済む。モルヒネの持続皮下注を行った結果、除痛されて食欲が回復した場合も経口投与への変更を考慮すべきである。
表12 1日に必要なモルヒネ量の計算
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水分・栄養補給の目的で血管が確保されている患者で、モルヒネが効果ある病態(1〜2mgのモルヒネを静注し、除痛が得られる:ドラッグチャレンジテスト)がモルヒネの持続点滴投与の適応になる。また、モルヒネ内服患者に手術や化学療法を施行する際も、モルヒネを持続的に点滴で投与することはよりよき除痛状態の継続につながる。
この方法の利点はモルヒネの吸収が良好か否かを推測する必要がなく、血漿中濃度を一定に保つことができること、急性疼痛あるいは慢性疼痛が急に悪化した患者に対して、急速に滴下し、除痛をはかることができることなどである。消化器症状の軽減は単に痛みが除去されるだけでなく、モルヒネ点滴投与の結果、血漿中モルヒネ濃度と腸管粘膜のモルヒネ濃度が等しくなるので、結果的には経口投与時より腸管粘膜のモルヒネ濃度が低く、腸管の蠕動麻痺が軽度となるためと思われる。
モルヒネ持続点滴の開始量は表13に示したように、例えば、モルヒネ60mg/日を経口投与中の患者を持続点滴注射に変更する時は、「生理食塩液100mlにモルヒネ20mgを入れたもの」を最初4ml早送りし、以後4ml/hrで輸液ポンプを用いてIVHのル−トから持続側管注とする。疼痛発現時に4mlの早送りを施行し、12〜24時間後に効果を判定し、除痛に必要なモルヒネ量を決める。
表13 モルヒネ持続点滴注射の準備と開始
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モルヒネ60mg/日を内服している患者の血漿中モルヒネ濃度の推移は10から20ng/mlである。一方、モルヒネ10mg/日を持続点滴静注を行っている患者の血漿中モルヒネ濃度は約10ng/mlである。
A. 例えばモルヒネ180mg/日内服中の患者(30〜60ng/mlを推移する)
モルヒネ持続点滴静注を行うのは、末期状態の患者だけではない。原因に対する治療が奏功すると、注意深い観察と表14に示す手順でモルヒネを止めることができる。
表14 モルヒネ注射の具体的な減量法
<モルヒネ60mg/日を持続皮下注射または点滴投与の場合>
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モルヒネ投与時にみられる眠気、錯乱などの中枢系の副作用のみならず、嘔気、食欲低下などの消化器系の副作用の発現も硬膜外モルヒネ注入法のほうがモルヒネの経口・注腸や持続点滴投与に比べてモルヒネ量が少ない。
経口モルヒネ投与から硬膜外モルヒネ注入に変更するときは、約1/15(1/10〜1/20)量、例えば、モルヒネ経口60mg/日投与で鎮痛が得られた患者の硬膜外注入のモルヒネ量は2mg×2/日で開始する。注射からの匹敵量は1/3〜1/5量である。
短期間に種々の薬剤が大量に投与され、意識レベルが低下し、混乱して痛みの程度が本人にもわからなくなることがある。硬膜外モルヒネ投与により確実に除痛すれば、他の投与薬剤を減量することができ、意識状態がはっきりし、痛みの程度を正確に評価できる。その後、経口投与などを徐々に再開すると、予想よりはるかに少ない鎮痛薬の量で鎮痛効果が得られる。
がん疼痛治療において、眠らせたままの状態ではなく、患者の意識が明瞭で、しかも痛みのない状態が継続するような痛み治療を目指す。例えば、モルヒネ50mg持続点滴投与しても痛みが除去されず、60mgに増量すると痛みは取れるが、眠気を訴える患者には、モルヒネ50mgに非ステロイド系抗炎症鎮痛薬(NSAIDs)を併用すると、意識清明な除痛状態が得られる。WHOの3段階除痛法ではモルヒネ±非オピオイド(NSAIDs)になっているが、必ずNSAIDsを併用することがポイントである。
モルヒネ治療中の患者の疼痛増強時にモルヒネを臨時追加投与した場合に意識清明で痛みの軽減が得られるならば、増量の上限はない。モルヒネの臨時追加投与の結果、患者が眠ってしまったために痛みを訴えない状態ならば、モルヒネの増量ではなくて他の鎮痛法を選択するべきである。
モルヒネ長期内服患者が急にモルヒネ内服を中断・中止すると、たとえ30mg/日のモルヒネ内服量であっても、退薬症候が発現する。弱い退薬症候(頻脈、発汗、下痢など)であっても、患者にとっては苦痛であるので、休薬するときには漸減投与が必要である。
モルヒネ内服中の患者に化学療法を行うときは、あらかじめ経口投与から直腸内あるいは点滴投与に変更すると、患者はより苦痛が少ない状態で、抗がん剤の治療が受けられる。
モルヒネ内服中の患者が手術を受けるときには、内服量の1/3のモルヒネ量を点滴で投与すると、退薬症候は出現せず、麻酔の覚醒も遅延しない。
モルヒネを持続点滴静注しているがん患者の血漿中モルヒネ濃度は、必ずしも投与量に比例した血漿中濃度を示す訳ではない。この原因は代謝速度や排泄の速い患者の存在を疑わせるだけではなく、分布容積の問題もある。胸水あるいは腹水中のモルヒネ濃度は血漿中モルヒネ濃度とほぼ同じであるので、急激な浮腫、胸水や腹水の発症(分布容積の増加)は血漿中モルヒネ濃度を相対的に低下させ、患者の痛みを出現させる。このような病態での痛みを精神的なものに起因させることを医療者は避けるべきである。 臨床的な観察から、除痛に必要、十分な量のモルヒネを投与することが大切である。
腫瘍の急激な増大や病態の変化などで突然痛みが増強した場合は、硬膜外モルヒネ注入で痛みを取り除く必要がある。患者の自立性が高い鎮痛法は経口か直腸内投与であるが、意識が清明で強力な鎮痛効果を有する硬膜外モルヒネ注入法はときに患者のQOLを向上させる。経口モルヒネ投与から硬膜外モルヒネ注入に変更するときの鎮痛の匹敵モルヒネ量は約1/15(1/10〜1/20)と考えてよい。
外来通院中の患者の除痛法は、下記のことなどが大切である。
モルヒネが鎮痛効果を示さない病態と判定する前に、表15に示す項目をチェックする必要がある。
表15 モルヒネが効果不十分または無効か否かの鑑別診断
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オキシコドンは1917年以降、臨床で使用されているが、モルヒネ製造時の廃棄物であるテバインから合成されるため、半合成オピオイドと呼ばれるμオピオイド受容体作動薬である。欧米ではこれまでアセトアミノフェンなどと配合されて使用されてきたため、アセトアミノフェンの投与量限界などの関係からがん性疼痛に対しては弱オピオイドとして使用されてきた。日本では、2003年7月に発売されたオキシコンチン(オキシコドン徐放製剤)がオキシコドンの製剤としてははじめてのものである。これはオキシコドンの単剤の徐放錠であるため、投与量の有効限界(Ceiling Effect)がなく、がん性疼痛マネジメントにおいてモルヒネとともに強オピオイドにおける中心的な存在となることが期待されている5。
オキシコドンは、Mundipharma社がモルヒネに代わる強力で持続性のある麻薬性鎮痛薬として開発した。現在、アメリカ、ドイツ、イギリスをはじめ世界14ヵ国ですでに発売されている。アメリカでは、現在、オキシコンチン錠(R)がMSコンチン錠(R)よりもむしろ多く処方されており、がん性疼痛だけでなく、非がん性疼痛への適応を広げている。オキシコドンの化学構造は、モルヒネあるいはコデインと類似するが、オキシコドンの構造には初回通過効果(First Pass Effect)を受けにくくする特徴を有している。モルヒネは経口投与すると速やかに代謝されるが、生物学的利用率は約20〜30%と低い。これに比べて、オキシコドンの生物学的利用率は約60〜90%であり、臨床で使用される各種オピオイド作動薬の中で最も高いといわれている。このため血中濃度はモルヒネに比べ著しく安定していると考えられる。
オキシコドンは、モルヒネと同様にμオピオイド受容体作動薬であり種々の薬理作用を発揮し、a)鎮痛、b)呼吸抑制、c)鎮咳、d)嘔吐、e)縮瞳などを起こし、モルヒネと同様に便秘、掻痒、紅潮、発汗が認められる。嘔気、嘔吐、眠気、せん妄、かゆみなどはモルヒネよりも少ないとされている。ヒスタミン遊離作用はモルヒネよりも弱く、モルヒネよりもかゆみを起こしにくいゆえんである。前述のとおりオキシコドンを経口投与した場合には、消化管から吸収され肝臓で初回通過効果を受ける。肝臓のチトクロームP450(CYP)2D6でオキシモルフォン、CYP3A4でノルオキシコドンに代謝される。このうちオキシモルフォンは活性代謝産物であるが、ごく微量であり体への影響はほとんどみられない。グルクロン酸包合ではオキシコドン−グルクロナイドへ変換されるが非活性である。オキシコドンの鎮痛作用、副作用は主として未変化体が関与しているため、これらの代謝酵素の阻害は副作用の遷延を起こす可能性がある。効果発現は、経口投与の場合、15〜30分で起こり、1時間以内で血中濃度は最大となる。徐放錠のオキシコンチンでも血中濃度は1時間以内で最大となるといわれている。血中でのタンパク結合率は45〜46%である。オキシコドンの速放製剤は日本では現在治験中である。
オキシコドンは初回通過効果を受けにくい薬物動態特性に加え、以下の治療メリットを有している。1)徐放錠からのオキシコドンの溶出はpHに影響されず、さらに溶出パターンが速放相と持続放出相の2相性を示すことから、鎮痛効果の発現は短縮され、鎮痛効果が12時間以上持続する。また、オキシコドンの吸収は食事の影響を受けにくい。2)血漿中薬物濃度のピークとトラフの差が小さく、投与量ならびに血漿中濃度と鎮痛効果との相関性が高いことから、治療効果を予測しやすい。3)血漿中のオキシコドンの活性代謝産物が量的に少ないので、鎮痛効果はオキシコドン自体によるものである。4)アミトリプチリンのような鎮痛補助薬あるいは他剤と併用しても、相互作用が起きる可能性が低い。5)高齢者をはじめ、腎あるいは肝障害患者において、著しい血漿中濃度の上昇はMSコンチン錠(R)に比べて起こりにくい。6)かゆみの発現率はMSコンチン錠(R)に比べ有意に低く、幻覚の発生も低かった
A.中等度の痛みに対して
オキシコドンは本来、強オピオイドであるのでWHO方式に従って強い痛みに対して使用されるが、中等度の痛みに対しても使用される可能性がある。もともと欧米では、オキシコドンは、5mg製剤がアセトアミノフェンとの合剤で中等度のがんの痛みに対して使用されてきている。日本では世界で唯一、オキシコンチンの5mg製剤が発売されている。日本での治験の結果ではオキシコンチンとMSコンチンの換算比は1:1.5で行われ有効な結果が出ている。つまりオキシコンチンを1日量として10mgを投与することはモルヒネ徐放錠を1日15mg投与することに相当する。現状ではNSAIDsによって不十分な痛みに対しては、中等度の痛みに対するコデインに徐放剤がないため、直接モルヒネの徐放錠が投与されることが多い。モルヒネよりも副作用が少なく、少ない投与量で投与できるため、今後、中等度の痛みをカバーする割合はモルヒネよりも大きくなるものと考えられる。
B. 問題点
フェンタニル製剤にはフェンタニル静注薬、フェンタニルパッチの2種類しかない。フェンタニル静注薬は2004年3月にがん性疼痛に対する保険適応が認可された。しかし、前述のように濃度が薄いことが今後の改善点である。
フェンタニル静注薬はもともと、麻酔剤の中の鎮痛薬として古くから使用されてきた。循環動態が安定していることから心臓手術の際に好んで使用されてきている。
フェンタニル自体には特にμオピオイド受容体のうちのμ1選択性があり、モルヒネに比べ副作用が少ないことがあげられている。しかし、以下のように副作用に特徴がある。
| 便秘: | フェンタニルも他のオピオイドと同様に痛みの抑制だけでなく、腸管の運動を抑制する。そのために便秘が起こるが、下剤の併用によって調節可能である。通常、オピオイド使用時には予防的に使用することが多い。しかし、フェンタニルに関しては上述のようにモルヒネに比べ便秘は少なく、症状が出てからでもよいと思われる。 |
| 吐き気、 嘔吐: |
便秘の頻度よりももっと少ないといわれている。もちろん抗嘔吐薬によって十分調節可能である。 |
| 眠気: | 投与量の増量によって起こる可能性がある。48〜72時間以内に減少していくが、芝刈り機、重機器、のこぎりなどを使用する場合には注意を要する。車の運転に関しては医療者とよく相談することが必要である。アルコールの摂取によっても眠気は増強する可能性があり、それを理解して摂取すべきである。通常のオピオイド投与の場合には薬剤を突然に中止することは禁忌であるが、本薬剤に関しては後述するように、皮下に残存するフェンタニルが投与後にも血中へ移行するため、退薬症状の危険性は低い。しかし、時間がかかっても一定以上のフェンタニル濃度の低下によって退薬症状は出現する可能性があるため、医療者との相談が必要である。 |
フェンタニルパッチの日本での保険適応はがん性疼痛のみに限られている。欧米では非がん性疼痛にも適応となっており使用頻度は高い。この理由として欧米では非がん性疼痛に対してのオピオイドの使用がある程度定着しはじめており、フェンタニルパッチを使用する場合には非がん性疼痛に対してもすでにオピオイドが使用され、それから移行する場合がほとんどだからである。日本では非がん性疼痛に対するオピオイドの投与は一般的でないため、重篤な副作用を避ける意味でも、フェンタニルパッチの使用はオピオイドがあらかじめ投与され副作用が調節されているがん性疼痛患者に対象を限るべきであると考えている。
フェンタニルパッチは長時間作用性であり、服薬コンプライアンスはこれまでの徐放性オピオイドに比べて著しく高い。しかし、長時間作用性の薬物の利点と欠点を知る必要がある。一般的に、長時間作用するオピオイドを使用するこつは、その薬剤の薬物動態を考えて投与することである。つまり、長時間作用する薬物は効果が出現するまでに時間がかかることをまず知っておく必要がある。特にフェンタニルパッチでは、効果が出るまでには約12〜18時間かかるとされている。従って、疼痛時には短時間作用性で効果がすぐに現れる薬剤であるモルヒネ水のレスキューを併用していくことが多い。また、モルヒネの徐放錠をフェンタニルパッチに変更するときには、モルヒネの血中濃度の低下とフェンタニルパッチから吸収され血中に移行したフェンタニル量の増加がオバーラップし、痛みが出現しないように短時間作用性モルヒネ(モルヒネ水のレスキュー)を適宜併用することが重要である。また、これによって退薬症状の出現を予防することも可能になる。退薬症状としては、下痢、腹痛、吐き気、冷汗、落ち着きのなさ、四肢の異常感覚(虫が這うなど)が出現するといわれている。
A. 貼付剤を72時間ごとにはり替えるだけでよいため、患者の服薬コンプライアンスが著しく高い。
B. 経口ができない患者でも投与可能であり、持続皮下、持続静脈内投与するための機械が必要ない。
C. 眠気、便秘が少なく経口薬剤があればモルヒネを凌駕する可能性もある。
D. モルヒネ不耐性に対しての代替薬として有効である。
持続的な痛みに対しては長時間作用性のオピオイド鎮痛薬の投与で調節し、突発的な痛みに対しては効果発現が早い短時間作用性オピオイドを組み合わせて使用する必要がある。フェンタニルパッチは長時間性であり効果発現までに12〜16時間くらいかかるため、本来、効果発現の短いフェンタニルが必要である。しかし、日本ではまだ入手できないため、現状ではモルヒネ水を併用していくべきである。米国ですでに口腔粘膜からの吸収による即効性のフェンタニル飴(Actique)が発売されている。
経皮製剤の利点が副作用対策において欠点となってしまうときがある。過度の鎮静や呼吸抑制など投与の継続が困難になった場合に注意する点は、パッチをはがしただけで安心してはいけない点である。皮下にフェンタニルが残存しているため、はがした後も血中にフェンタニルが移行していくことが考えられる。50%低下するためには17時間かかるとされている。従って、ナロキソン(R)によって拮抗する必要がある場合には、持続投与によって数時間ナロキソン(R)を投与していく必要がある。
がん性疼痛に対するオピオイドの使用は1986年のWHOがん疼痛治療指針の発表1以来、モルヒネがスタンダードになっているが、今日ではモルヒネ以外の新しいオピオイドも少しずつ開発され、欧米ではすでに患者に合わせたオピオイドが選択できるオーダーメイドのがん性疼痛治療が視野に入っている。
がん性疼痛に使用されるオピオイドはほとんどがμ受容体を中心に作用するものであるが、同じμ受容体に作用する物質であっても、その作用以外にそれぞれが鎮痛効果、副作用のでかた、種類など、異なる特徴を持っている場合が多い。その特徴を利用し、鎮痛効果の質を高めていくことをオピオイドローテーションと呼ぶ2。オピオイドローテーションを行う理由として3は、1)鎮痛効果を高める、2)副作用を低下させる、3)その他(患者のQOLの向上)、であるが、日本ではオピオイドの種類が少ないため、オピオイドローテーションを行うにあたってまだ多くの問題点を抱えている。また、オピオイドローテーションは諸刃の剣である。患者に合ったオピオイドが選択できるという利点がある反面、オピオイド使用にあたっての副作用対策の基本的な技術を低下させてしまう可能性があるからである。適正なオピオイドローテーションに向けての基本方針、実際の使用法を述べる。
がん患者の痛みに対してオピオイド鎮痛薬の最小限の基本構成は、徐放製剤、速放製剤、注射剤の3つである。従ってオピオイドローテーションにあたっても薬剤の種類だけでなく剤型の変更も含めた総合的な観点で考える必要がある。
がん患者の痛みは時とともに強さも性質も変化するが、がんの痛みは持続的な痛みだけでなく、間歇的な痛みがあるため、長く効く薬剤だけでなく、速く効く薬剤が必要である。また、患者に合った鎮痛薬の量を決めていくためには適正量を決める(titrate)ことが必要であり、それには速放製剤の役割は大きい。そしてオピオイドの効き目、反応性を評価するうえでの速放剤の役割も忘れてはならない。なおかつ静注・皮下注製剤が必要である理由として、その患者の全身状態の変化に伴って投与経路を変更せざるを得ないことがあるからである。
効果発現が遅いが、効果持続時間は長いことが特徴である。従って、服薬コンプライアンスの点から経口が可能であるがん性疼痛患者の鎮痛薬の基本である。一日の定期的な投与により、速放剤投与が最低量になるような投与量に調節していく(titrate)。現在はモルヒネ各種製剤、オキシコンチンのみが使用可能である。また、モルヒネ徐放剤の一日投与量が安定してきた時点で服薬コンプライアンスの点で貼付剤に変更する場合もある。
a) レスキューとして
即効性があるが効果が持続しないことが特徴である。Breakthrough painなどの突発的な痛みに対して使用される。持続的な痛みは徐放製剤で、間歇的な痛みは速放製剤で取ることが基本である。また、適正な徐放製剤の投与量を決定するために疼痛時にレスキューとして使用される。1日の速放製剤の投与が行われない徐放製剤の投与量が決定されるのが理想であるが、徐痛目標としてまずレスキューが2〜3回/日程度の投与が行われる程度とすることが多い。現在、速放製剤としてはモルヒネしかない。徐放製剤の1日投与量のモルヒネ換算で1/6量が基本的な投与量である。
b) 痛みの性質を調べるために(モルヒネチャレンジテスト)
痛みがモルヒネに対して反応するかどうかを検討する場合には、同様に1/6のモルヒネを疼痛時または予防的に使用する。オピオイドの1日投与量が適正量である場合に、レスキューモルヒネが効きにくい痛みが出る場合には鎮痛補助薬の投与を検討する必要がある。
注射薬は静注も皮下注にも使用可能であり、経口投与ができない場合には中心となる。現在はモルヒネ、フェンタニル製剤しかない。モルヒネには2つの濃度があり(10mg/ml、40mg/ml)、フェンタニルには50μg/mlの1つの濃度しかない。皮下注の場合には1ml/h以上投与ができないため、現在の濃度ではかなり投与量に限界があり、使用しにくいことが多い。
このようにオピオイドローテーションは徐放剤、速放剤、静注製剤が揃ってはじめて完遂することができるといっても過言ではない。メインの徐放剤の変更だけでレスキューが必要ない場合はオピオイドローテーションによってオピオイド副作用の軽減は可能であるが、オピオイド不耐性の場合には現状ではオピオイドローテーションを経口製剤だけで完全に行うことが困難である。経口投与以外の皮下注などを併用して行うことでしのぐしかない。従って、重要なことはオピオイドの副作用対策を安易なローテーションで対応してしまうことは避ける必要があるということである。モルヒネの副作用は、副作用対策を十分にすることと投与経路を経口投与から静注投与に変更するだけでも副作用対策を行うことが可能であり、耐性がついてから経口投与に戻すことが可能になる場合もある。
MSコンチン→オキシコンチン
日本における経口の徐放製剤同士ではこのパターンのみ可能である。変換比は3:2であり、MSコンチン30mg/分2/日の場合、オキシコンチンでは20mg/分2/日に変換するのが妥当である。レスキューはいずれの場合もモルヒネで行ない5mg/回とする。腎機能の悪化時、低活動性せん妄時、眠気、嘔気が調節不能なときが適応である。
低容量の5mgのオキシコンチンが発売されているため、オキシコンチンを10mg/日で投与することが可能となった。これはモルヒネ15mg/日に相当するため、オキシコンチンをモルヒネよりもはやく徐放錠として使用する可能性が高くなると思われるが、オキシコンチンからモルヒネへのローテーションを行う場合も今後出てくる可能性は考えられる(私見であるが呼吸困難の場合など)。
日本では、MSコンチン、オキシコンチンをフェンタニルパッチに変更する場合にのみ可能である。フェンタニルパッチへの変更は保険診療上、モルヒネを投与されていることが前提となるため、現在オキシコンチンからの変更が可能となるよう各方面から働きかけを行っている。MSコンチンからフェンタニルパッチへの変更は、フェンタニルパッチが1日に600μgのフェンタニルを放出することを前提とすると、MSコンチンとしては60mg/日の投与量と同等であると考えており(100:1)、それを中心として患者の状況によって変更している。疼痛時にはモルヒネによるレスキューを併用していく必要がある。しかし、モルヒネ不耐性の場合にはモルヒネレスキューも不能であり、この場合は暫定的にフェンタニルを皮下注で間歇的に投与することを行っている。その場合にはレスキューのみで使用するとよい。
経口摂取が不能な患者におけるオピオイドローテーションは、現状ではモルヒネとフェンタニルの間でのみ可能である。換算の比率は100:1から開始し、鎮痛効果をみながら適正量まで増量していく。レスキューは1時間量を投与する。モルヒネが1日に30mg/日で投与されている場合にはフェンタニルとして300μg/日で投与開始している。フェンタニルは持続皮下注では最大量としてせいぜい1,200μg/日である。それ以上になる場合には静注投与を検討するか、フェンタニルパッチを併用することを検討する必要がある。また、モルヒネへの再ローテーション、併用を行うことも必要がある。本来、μオピオイド受容体に作用するオピオイド同士を併用する意味はないと考えられているが、現状では併用せざるをえないときもある。
経口徐放剤から静注薬に変更する場合もある。経口のモルヒネ製剤を服用している患者がせん妄になった場合には、フェンタニル持続静注に変更すると改善する場合が多い。また、サブイレウス時にも同様に行うことが多い。
本来、オピオイドの使用にあたっては、その副作用である便秘、嘔気・嘔吐、眠気、排尿障害、かゆみ、せん妄などが出現する可能性をあらかじめ予測し早急に対応する必要がある。特に出現頻度の高い副作用である便秘、嘔気・嘔吐に関しては可能な限り予防的な対策を行うべきである。それを可能な限り十分に行ったうえで副作用の調節ができない場合にはじめてモルヒネ不耐性と考え、オピオイドローテーションを検討すべきである。副作用の発生頻度、程度は患者によって著しく異なることが多く、患者それぞれの反応を把握しそれぞれの患者に合ったオピオイドの投与ができるよう考えていく必要がある。オピオイドの種類はこれからも増えていく可能性は高い。副作用の少ない質の高いオピオイドが出現する可能性があっても基本的にはμオピオイド受容体レベルでのものであれば患者それぞれによって副作用の程度は異なると考えられる。従って、上記に対する副作用対策は必要である。基本はμオピオイド受容体作動薬の基本であるモルヒネであり、その副作用に対する対策を習得していればその他のオピオイドの副作用対策も可能であると考えられる。
また、速放製剤がモルヒネしかない現在では、多くの病院、在宅医療施設ではオピオイドの種類は共通なオピオイドとしてのモルヒネ、コンプライアンスを考えたフェンタニルパッチが中心となる可能性があり、モルヒネはその意味でもオピオイドのスタンダードと考えられる。モルヒネには多くの投与経路が選択できる利点もあり、その点でも重要である。
ローテーションは、可能な限り副作用対策を行い、それでも改善しない場合に検討すべきである。副作用対策に使用される薬剤にも程度があるため、それを理解することも重要である。時期としてはオピオイド投与初期、オピオイド投与後の安定期に起こる。安定期のオピオイドの副作用は、全身状態の変化、痛みの変化などによって起こると考えられる。
嘔気・嘔吐はモルヒネの投与初期において、オピオイドの偏見を増悪させる最も大きな要因である。吐き気止めを使用したが嘔気が収まらないので、という依頼が多いが、その中にプリンペラン、ナウゼリンなど嘔気止めの作用としては弱いものしか使用していない場合がある。プロクロルペラジン(30mg/分3/日)やハロペリドール(1.5mg/分2/日)などの向精神薬を時間どおりに十分に使用し、それでも調整できない場合がローテーションを考える時期としている。安定期に嘔気が出現する場合には、患者の全身状態の変化によるものであることが多い(後述)。もちろん消化管の狭窄、閉塞ではないことを可能な限り確認することである。
モルヒネは通常、腸管の運動抑制などにより便秘を起こす。これは末梢モルヒネ受容体に対する直接的な作用であり、経口投与においては特に重症となる。便秘は耐性がつかないため、投与開始から末期に至るまでマグネシウム製剤による便の軟化、センナなどの刺激性下剤による刺激の組み合わせにより量を調節していくほうが効率がよい。増量していても反応が見られず、腹部膨満感が強くなる場合、消化管運動への影響を考える場合にはオピオイドローテーションを行うことが多い。オキシコンチンは便秘に関してはモルヒネとほぼ同等と考えられているが、フェンタニル投与に変更することにより、重症な便秘は改善することが多い。消化管閉塞をチェックすることが重要である。
眠気はモルヒネの投与初期に多くみられる副作用である。通常は経過をみるだけで数日のうちになくなってくることが多い。眠気の減少が少ない場合には、メチルフェニデイトを20mg/分2(朝、昼)で開始することでほとんどの眠気が消失するため、眠気でオピオイドローテーションを行うことは少ない。しかし、安定期に突然、悪化してくる場合には全身状態の変化であることが多くオピオイドローテーションを行う適応となる。
モルヒネによるかゆみも投与初期に時々みられる副作用である。抗ヒスタミン薬の投与がまず行われるが、眠気が強くなる程度に使う必要があるともいわれている。鎮痛効果を拮抗しない程度の低用量のナロキソン(R)の投与が有効であるという報告がある。
抗ヒスタミン薬が効かないかゆみを有効にとる方法はないため、重篤な場合にはオピオイドローテーションを検討すべきである。高ビリルビン血症、腎不全を除外すべきである。
モルヒネによる排尿障害も時々出現する。多くはαブロッカーであるハルナール(R)などで対応することが可能である。それでも改善しない場合にはオピオイドローテーションの適応を考える。もちろんがんによる物理的な圧迫によるものは除外すべきである。
モルヒネ単独で起こることは少なく、電解質異常など改善可能なことは改善すべきである。ハロペリドールによる対応も必要である。モルヒネの開始時にも、モルヒネを投与後しばらくしてからも起こる。末期のせん妄を除き開始時のものはオピオイドローテーションを行うと改善することが多い。
日本ではあまり認識されていないが、モルヒネ投与が大量になってくると鎮痛薬によって逆に痛みを起こすものである。くも膜下投与で多いが全身投与でも起こるとされている。欧米ではこれによるオピオイドローテーションも行われている。代謝産物のM3Gが原因と考えられている。
モルヒネの副作用と考えてしまうことが多い症状である。多くはモルヒネ以外の原因を検索する必要がある症状である。患者はがんによる苦痛症状が出ているときでも、モルヒネを服用している場合にモルヒネのせいと考えてしまう。これもモルヒネに対する偏見の1つであるが、オピオイドローテーションを検討する以前に症状がモルヒネによるものであるかどうかを確認する必要がある。モルヒネでないものに変更することが目的となることは避けるべきである。
痛みの性質が変化(モルヒネに対する反応性の低下)した場合、剤型の変更が有利に働く場合、薬物の相互作用(代謝酵素の阻害)を避けたい場合、モルヒネの偏見を避けたい場合、オピオイドの服薬コンプライアンスを高めたい場合(フェンタニルパッチなどへ)などもあるが、最後の2者は本来、オピオイドローテーションで解決するよりも患者教育によって解決すべき問題であろう。オピオイドローテーションには絶対的な適応、相対的な適応がある。相対的な適応によって患者のQOLの向上を考えローテーションを考えることは仕方がないが、一度ローテーションを行った後には、日本では次に変更する選択肢がない場合が多いことも認識すべきである。
モルヒネの投与が開始された後、副作用の調節も安定したにもかかわらず、新たに副作用が出現する場合がある。痛みが明らかに減少するような状況がある場合(神経ブロック後、放射線療法後、化学療法後、神経麻痺後)にはモルヒネの減量で対応するが、以下の場合にはオピオイドローテーションを検討する。
モルヒネの場合、活性代謝産物は腎から排泄され、腎機能障害時には眠気、だるさ、嘔気・嘔吐、せん妄などが出現しやすくなる。腎機能の悪化が予測される場合、悪化してきている場合で上記の症状が軽度でもみられる場合には、早急にオピオイドローテーションを行うべきであろう。
モルヒネを使用している場合、肝機能障害はグルクロン酸包合に関してはぎりぎりまで影響を与えないと考えられている。肝機能の障害の検査データで予防的にローテーションする必要はないと考えている。しかし、モルヒネ以外のオピオイドは多くの場合、肝臓のチトクロームP450で代謝されるため、肝機能障害、もしくはそれらの酵素の阻害剤によって効果、副作用が影響される可能性がある。
頭頸部の患者の場合、病気の進行によって経口摂取が不能となる。また、放射線治療中においても経口投与ではモルヒネの投与が不能となる。この場合、オピオイドの投与経路の変更でほとんど対応可能であり、オピオイドローテーションを行う必要はないが、フェンタニルパッチで対応する場合も多い。
消化管のがんの場合は消化管閉塞が最終的には頻度が高い。経口オピオイドは中止せざるを得ないが、これもフェンタニルパッチで対応可能であることもある。レスキュー投与が必要であるかどうか安定するまではフェンタニルの持続皮下注、レスキューもそれで行うことが可能である。
オピオイドの併用は本来、μオピオイドの鎮痛効果を中心として使用しており、同じ作用機序を持った薬剤は併用しないでもすむはずである。しかし、フェンタニルの場合には、静注薬の濃度が薄いために、投与量が増加してくると1日に何回もポンプを変える必要が出てくることが多い。それに対して、一定以上のフェンタニルが投与されてくるとモルヒネ静注を併用する施設が多くみられるようになった。もともとフェンタニルに変更する理由があったものが、モルヒネを併用しても問題なくなっている場合であると考えられるが、腸管に対する作用が用量依存性である場合には少しでもモルヒネを減らしていこうとする状況もあると考えられる。ただ、現実にはオキシコンチン、フェンタニルパッチにモルヒネのレスキューを使用していることなどもあり、製剤が揃うまではやむをえないと考えられる。ただ、フェンタニルパッチとMSコンチンの併用などは現状では避けるべきと考えている。
痛みだけでなく、呼吸困難や咳に対してのオピオイドの使用が行われている現在、それに対するオピオイド使用のローテーションも考えていく必要がある。モルヒネ、オキシコンチン、フェンタニルの呼吸困難、咳に対する有効性は定まっていない。モルヒネ、コデインのほうが呼吸困難や咳に効くという医師もいる。今後、その点は科学的に検証する必要があるが、それらの症状に対して明らかな効果の違いがある場合には(フェンタニルパッチを使用している患者の咳にモルヒネを併用していくなど)併用していく意味、オピオイドローテーションを行う意味があるのではないかと考えている。
モルヒネなどのオピオイドは本来、神経因(障害)性疼痛に対しては効きにくいとされている。しかし、日本でも使用可能であるオキシコンチンが、糖尿病性末梢神経障害や化学療法に伴う末梢神経障害で発生するしびれ、痛みに対して有効であることが報告されている8。副作用の軽減という点でなく、日本でも鎮痛効果の増強という点でのオピオイドローテーションが視野に入ってきていると思われる。
がんの原発部位や転移部位によっては、モルヒネを主軸とするWHOがん疼痛治療法を応用しても、痛みを緩和させることが非常に困難である。神経や神経叢への浸潤・転移(特に横断麻痺の完成の直前)による痛みは、NSAIDs+モルヒネの治療効果が少ない。
クロナゼパム、フェニトインやカルバマゼピンは神経の異常発射を抑制するので、痛覚求心路遮断による刺すような痛みやがん、あるいはがんの治療に起因する神経障害として引き起こされたチック様の痛みに有効である。クロナゼパム、カルバマゼピン、フェニトインが第一選択の薬剤である。
クロナゼパムは1日に眠前0.5mgから投与開始し、眠前1.0mg、その後日中に朝、昼半量ずつ追加して使用する。カルバマゼピン(テグレトール)は1日100mg〜200mgから開始し、至適効果が現れるまで(最高600mg/日)、2〜3日ごとに100mgの割合で増量する。具体的には、睡眠補助をかねて、就寝前に1錠(200mg)を内服させる。その結果、日中に眠気が出現しなければ、あるいは出現した眠気が軽減したら、朝半錠(100mg)、昼半錠、夜1錠(200mg)を内服させる。次第に増量し、1日量3錠をおおよそ8時間ごとに内服させる。
フェニトインは1日100mgから開始、25〜50mgずつゆっくり増量し、1日250〜300mg以下とする。副作用はカルバマゼピンの副作用と同様である。
ステロイド剤はがん性の脊髄圧迫、パンコスト肺がん患者の上腕神経叢あるいは腰仙骨神経叢のがん病巣が原因となる痛みの管理に有用である。さらに、末期状態のがん患者において多幸感と食欲の増進をもたらす。ステロイド投与による興奮や不眠に対しては、就眠前にジアゼパムを投与する。ステロイドの急激な中止は離脱症候が出現するだけでなく、痛みを一層悪化させることがあるので、漸減が望ましい。
多くの症例ではデキサメサゾンを1日2〜4mg、またはプレドニソロン1日量15〜30mgを投与する。脊髄圧迫症例では、デキサメサゾン1日16〜30mg(96mgまでの増量可、その等効果用量の他のステロイド)を投与する。神経圧迫の痛みにはステロイドを1週間投与し、痛みが軽減したら、その後に漸減・中止しても、症状の緩和が継続するとの報告もある。
抗鬱薬ではアミトリプチリンが神経因(障害)性疼痛に有効であるとされているが、がん性疼痛においてははっきりとした報告はない。しかし、経験的にはアミトリプチリンをがん性神経因(障害)性疼痛にも用いていることが多い。投与法としては、アミトリプチリン10〜20mg/眠前で開始する。効果発現は1週以上かかると考えられている。副作用として眠気、口渇、便秘があるのでモルヒネとの併用にはその点を十分に考慮する。
当院では即効性を期待してアモキサピンを替わりに使用している。投与量は、眠前25mgで開始し、1日50mg/分2で維持することが多い。現在がん性疼痛に対して臨床試験中である。
がん患者のしびれに応用して、ときに効果がある症例に遭遇する。がん患者の神経圧迫に起因するしびれや痛みにも奏効を示すことがあるので、前述の抗痙攣薬(副作用の眠気が多い)投与の前にリドカインを選択する医師も多い。
具体的には、1%のリドカインを50〜100mgを静注して、しびれや痛みの症状が寛解もしくは軽減するようならば、メキシチール(R)の内服に変更する。
その他、抗不安薬(ベンゾジアゼピン系薬剤)、向精神薬(神経遮断剤:neuroleptics)、抗欝薬、その他の鎮痛補助薬(カフェイン、デキストロアンフェタミン)などがあるが、参考図書を参照していただきたい。
がんの原発部位や転移部位によっては、痛みを緩和させることが非常に困難である。さらに、がんは進行すると全身疾患の性格を強め、モルヒネの経口投与や持続注射でも、痛みが制御されなかったり、副作用対策が奏効しないために、がん患者の疼痛管理に困難をきたすことがある。
ほとんどの痛みはWHOがん疼痛治療法を応用すれば軽減するが、神経や神経叢への浸潤・転移(特に横断麻痺の直前)、消化管の通過障害による痛み、褥瘡の痛みには、NSAIDs+モルヒネの治療効果が少ない。
ケタミンは、N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体の拮抗薬とされるが、その鎮痛作用は強力で、5mg/hrの速さでの点滴静注でも十分な鎮痛が得られる。従って、前述の難治性がん疼痛に1日量125〜250mgのケタミンを投与すると、傾眠や夢・幻覚などの副作用が出現せずに、よりよき除痛状態が得られる。ケタミンに精神症状の予防を目的として、ドロペリドール10mgないし20mgを混ぜるのもよい方法である。
褥瘡の痛みのために、日夜ベッドに臥床できずに、ベッドの柵を利用し、両腕で体重の負荷を軽減させている患者に硬膜外チュ−ビングを行い、硬膜外にキシロカインを注入すると、患者は仰臥位で暮らすことが可能となる。さらにケタミン250mg/日の持続点滴を併用した結果、点滴モルヒネを減量でき、幻覚も消失し、車椅子で病棟内を散歩できるようになる。
がん患者の疼痛が改善しても、改善されない随伴症状として呼吸苦、むくみ、褥瘡、管による拘束感、動けない、倦怠感、食べられないことなどがあり、これらの症状は鎮痛補助薬でも軽減しない。鍼灸治療は副作用がなく、マッサ−ジが効果を示す痛み、ピリピリした痛み、しびれ、浮腫、こり、腹部膨満感・便秘、呼吸苦などに治療効果が認められるので、利用するほうがよい。
以上述べた難治性がん疼痛の治療法については、下記のことなどを含めてこれからの研究課題である。
がん疼痛の治療は患者の病態を悪化させることなく、痛みを最大限に取り除き、しかも副作用を最小限にすることである。がん患者の痛みは治療すべき症状であり、治療しうる症状である。痛みが除去されると、たとえ末期であっても、患者の表情は明るくなり、その人らしい日々の生活が送れることにつながり、家族に残される思い出の内容も良いものに変わる。
がんの疼痛を緩和するためにモルヒネを使用する時には以下の点に配慮する。